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ベトナム市場の「今」を読み解く 第2回 飲食・宿泊サービス市場の活況と加速するキャッシュレス決済 /渡部智樹

2026.01.15 COLUMN

#新興国ビジネス#事業開発

ベトナム市場の「今」を読み解く 第2回 飲食・宿泊サービス市場の活況と加速するキャッシュレス決済 /渡部智樹

執筆:Skylight Consulting Vietnam Co., Ltd. 代表 渡部智樹

ベトナム市場の「今」を読み解く 第1回 製造拠点から“消費大国”へ、現場が感じる変化 /渡部智樹

―都市部で加速する内需消費―

第1回目でお伝えした通り、ベトナムは「製造拠点」としてのイメージが強い一方、都市部を中心に「買う国(消費市場)」への変貌が急速に進んでいます。ベトナム統計総局(GSO)によると、2024年の国内の消費財・サービス小売売上高は、前年比9%増の約6,400兆ドン(約2,520億USD)に達しました。

物品小売の内訳を見ても、食品・食料品が10.8%増、衣料品は8.4%増、家電・工具は3.6%増、文化・教育製品は9.1%増と、主要カテゴリのすべてで顕著な伸びを示しています。なかでも文化・教育製品の伸びは、現地における「教育・自己投資志向」の高まりを裏付けており、消費者が生活必需品だけでなく、自己や家族への投資にも積極的に支出する傾向が見て取れます。

第2回となる今回は、活況を呈している「飲食・宿泊サービス」の国内消費に焦点を当てます。

飲食・宿泊サービスの活発化

飲食・宿泊サービスの国内消費による収益は、前年比13%増の734兆ドン(約290億USD)に達しました。外食、カフェ利用、フードデリバリーといったサービス消費はすでに日常化しており、都市部中間層による「体験型・嗜好型消費」が市場を牽引しています。

  • カフェ・コーヒーチェーン:ベトナムでは古くからカフェ文化が根付いており、街の至る所に店舗がありますが、近年はさらなる進化を遂げています。ホーチミン市やハノイ市を中心に、「Phúc Long」などの地場ミルクティーチェーンや、日本でも馴染みのある台湾発ブランド「Gong Cha」が若者の間で人気です。

    最近では、抹茶を扱う専門店の急増も印象的で、SNS映えするメニューや店内での体験型の楽しみ方が支持されています。都市部の若年層にとって、カフェ利用は単なる飲食ではなく、仲間とお洒落をして写真を撮り合うなどライフスタイルの一部となっています。

  • レストラン・外食チェーン:平日ランチや週末のディナーを家族や友人と楽しむスタイルは、都市部の定番スタイルとなっています。街角や商業施設には、カジュアルレストラン、地場の外食チェーン、ファストフード店がひしめき合っています。グローバルなブランド力を持つ大手チェーンであっても、競争を勝ち抜くためにローカライズを徹底しており、市場の激しさを物語っています。

    例えば、マクドナルドでは、現地ニーズに基づいて、チキンをベースにした商品ラインナップに力を入れています。実際に店舗を訪れると、ハンバーガーを注文している層は少数派で、多くがフライドチキンと白米のコンボを手にしています。このようなローカライズは、ベトナム進出を検討する際の商品戦略として大いに参考になるでしょう。

    日系の外食チェーンもこぞって参入する中、日本人起業家が創業したホーチミン発の人気チェーン「Pizza 4P’S」が一際大きな存在感を放っています。従来のピザとは一線を画す独自の商品もさることながら、店舗における顧客体験(空間や接客など)の提供を通じて独自のブランドを構築しており、連日ベトナム人で賑わっています。

  • フードデリバリー:バイクの保有率が世界トップクラスのベトナムでは、フードデリバリーが「生活インフラ」としてすっかり定着しており、ASEANの中でも極めて高い成長を遂げています。「GrabFood」や「ShopeeFood」などのアプリは、オフィスランチから夜食、カフェドリンクまであらゆるシーンで利用され、急成長を続けています。

    こうした需要に呼応して、日系飲食店でもデリバリー対応が一般化しており、専用アプリやSNSを通じてのデリバリーサービスが定着しています。近年特に人気なのが「Group Order(グループ注文)」機能で、複数の友人や同僚が各自の端末から1つの同じカートに注文を追加し、配送料を分担できる仕組みです。これにより「選ぶのは個別、届くのは一緒」という効率的かつ楽しい注文体験が支持され、オフィスランチやティータイムで広く利用されています。

カフェやレストランなどが入居しているホーチミンのビル

キャッシュレス決済の急速な浸透

こうした消費活動を支えているのが、キャッシュレス決済の急速な普及です。ベトナム国家銀行によると、2023年末時点で成人の約 77%が銀行口座を保有しており、これは、2015から2017年の期間と比べると約31%増加しています。多くの人々が銀行アプリや電子ウォレットを日常的に利用できる環境が整ったことで、同銀行傘下の国家銀行統計局の報告では、2024年1〜7月の非現金決済取引件数は前年同期比で58.4%増、取引額は35.1%増と急増しています。

その背景には、「MoMo」「ZaloPay」「VNPay」「ShopeePay」といった地場の電子ウォレットの普及があります。特に国内最大手のMoMoは登録ユーザー数が3,000万人に達しており、飲食店やカフェ、EC、交通アプリなど、あらゆる生活シーンで決済手段の柱となっています。こうしたデジタル基盤の強化が、都市部中間層における消費の利便性を向上させ、「スマホ決済+外食・カフェ利用」というライフスタイルを定着化させています。

まとめ

都市部中間層の拡大、体験型・嗜好型消費の増加、そしてキャッシュレス決済の普及が相互に作用し、ベトナムの飲食・宿泊サービス市場を力強く支えています。

こうした現地消費者のライフスタイルの変化を深く理解し、それに基づいた商品・サービス投入やマーケティング戦略を設計することが、今後の成長機会をつかむ鍵となるでしょう。

次回は、同じく成長著しいカテゴリである「文化・教育商品」の消費トレンドに焦点を当てます。

 

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渡部 智樹Tomoki Watabe

Skylight Consulting Vietnam Co., Ltd. 代表

外資系金融機関を経て、2013年にスカイライトコンサルティングに参画。 2019年にベトナムへ活動拠点を移し、2022年から現職。ASEAN地域への新規参入を目指す企業や進出済み日系企業の更なる成長を、事業開発・企業変革・組織風土変革の各種コンサルティングサービスを通じて支援している。