「新規事業立ち上げ」の要諦(第3回:当社の子会社設立事例)/山下 厚
2025.12.23 COLUMN
#ビジネス戦略#新規事業
段階的なSTEPを踏むことで成功確率を高める
スカイライトベトナムにおける新規事業の立ち上げとその後の拡大過程を振り返ると、その歩みは明確な段階を踏んでいることがわかる。
初期は、日本からの定期的な出張によって事前調査や仮説検証を進めた。現地市場の実態を俯瞰的に把握する過程では「ただ足を運ぶ」のではなく、事前に策定した仮説を磨き上げるためのPDCAに注力した。現地のリアルを肌で感じながら、「誰に対して、どのようなサービスであればニーズがありそうか?」といった仮説をより確からしいストーリーへと洗練させていった。
その後、市場の解像度が上がり、価値提供のストーリーが固まった段階で、出張ベースの活動には限界が見え始めた。成長スピードの早い市場環境や顧客(カスタマーやクライアント企業)ニーズの変化に対して、よりリアルタイムにキャッチアップする必要性を痛感したためだ。そこで、まずは現地のパートナー企業に渡部が出向する形態を採った。これにより現地に根差した準備が可能となり、見込み顧客との関係深化や、協業パートナーの開拓が一段と加速した。
さらに歩みが進むと、現地での営業活動や採用活動において、拠点設立に踏み込む必要性を強く実感するようになった。現地に拠点を構えてこそ顧客や採用の候補者から高い信頼が得られ、活動が真に加速する。そのようなメリットがリスクを上回ると判断し、現地拠点の設立に踏み切った。
当社が辿った歩みが示す通り、新天地で新規事業を立ち上げることは一足飛びには難しい。スピード感を重視しつつ、仮説検証によってリスクを丁寧に解消し、また現地での信頼獲得のステップを段階的に踏むことこそが、成功する確率を高める要諦と考えられる。
成功への“信念”を貫く「人」の存在が鍵を握る
新規事業の成否は、目標に向かって強い“信念”を貫く「人」の存在が鍵を握る。純粋に熱量が高いだけではなく「挫折を経験しても簡単には諦めない」という意味での“信念”である。スカイライトベトナムのケースでいえば、現在代表を務める渡部の存在が極めて大きかった。
ここでのポイントは、主体的に動く「人」のリーダーシップに周囲が魅了されるということだ。その信念の強さに周囲が共感し、協力者が増えることで、事業を推進する大きなダイナミズムが生まれる。優秀な“ファーストペンギン”の存在だけでは、新規事業の立ち上げは難しい。設立時、当社の社内でも「何かあれば協力する」と手を挙げる社員が多数現れ、そのサポートによって立ち上げの機運が着実に高まっていった。
筆者のコンサルティング支援経験を振り返っても、経営者や担当者の揺るぎない信念が周囲のメンバーを巻き込み、チームとしての力を最大化させていたケースは多い。逆に、トップダウンで“白羽の矢”を立てられたメンバーのモチベーションには一層の配慮が必要となる。
また、新規事業の企画書や計画書の作成において、「一から十まで外部に任せたい」というケースは、実際には上手く立ち上がらないことがほとんどである。信念を持ったメンバーが「まずは一通り企画書や計画書を作成するので、足りない部分のアドバイスが欲しい」と依頼されるケースでは、上手く事業が立ち上がるものだ。日々の支援を通じて、主体性をもって信念を貫く「人」こそが事業を形にするための核心であると実感している。
次回は、新規事業の立ち上げ形態を問わず、汎用的に踏むべきプロセスを解説する。
筆者による連載 『中期経営計画』編
山下 厚Atsushi Yamashita
スカイライト コンサルティング株式会社 ディレクター
東京大学法学部法律学科を経て、2009年にスカイライトコンサルティングに参画。主にBtoC企業を対象とする戦略策定、企画立案から実行推進までをワンストップに手掛ける「ビジネス戦略ユニット」の統括責任者。
デジタルマーケティング領域の知見者として、特に消費者の生活に関わる各種業界・業種において、企業全体の戦略見直しから新規事業・サービスの立上げまで幅広く手掛ける。上場企業向けの新規WEBメディア立上げや、ECサイトリニューアル等、自らがPMとして舵取りをして実現まで成果を導いた案件も多数あり、プロジェクトマネジメント有識者として中小企業の外部講師としても登壇。
出資および買収案件における事業デューデリジェンスも得意とし、複数企業間の協業モデル構築に関する知見および実績がある。また新規事業として、マーケティング知見のアジア展開もリードする。