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「新規事業立ち上げ」の要諦(第3回:当社の子会社設立事例)/山下 厚

2025.12.23 COLUMN

#ビジネス戦略#新規事業

「新規事業立ち上げ」の要諦(第3回:当社の子会社設立事例)/山下 厚

執筆:スカイライト コンサルティング株式会社 ディレクター 山下 厚

「新規事業立ち上げ」の要諦(第1回:新規事業の定義と立ち上げのハードさ)/山下 厚

「新規事業立ち上げ」の要諦(第2回:立ち上げの形態と特徴)/山下 厚

<第2回>では、「新規事業立ち上げ」の形態と特徴について解説した。今回は「新会社の設立」のケースとして、当社における子会社設立の事例を取り上げ、その過程から得られた学びを解説する。

スカイライトベトナムの設立

当社は以前から、出資先を含む現地企業との協業を中心にASEAN地域での新たなビジネスを模索していた。急成長するASEAN地域において一歩ずつビジネスの芽を育んできたが、本格的な事業の立ち上げと拡大に踏み込むため、2022年8月、100%独資の子会社としてSkylight Consulting Vietnam Co., Ltd.(代表者:渡部智樹 ※以下、スカイライトベトナム)を設立した。

ベトナムで最も人口が多い都市であり、産業・金融の中心地として自由で国際的な雰囲気が特徴的なホーチミン市に拠点を構えた。筆者はマネジメントの立場から、設立時に必要な手続きの確認や事業計画の策定、提供サービスの検討など、代表の渡部をサポートした。

スカイライトベトナムの主な提供サービスは、以下の3つである(図解1を参照)。

①【New Market Entry】日本またはASEAN地域の周辺国からベトナムへの進出を支援
②【EC Consulting】ECサイトを活用した拡販を支援
③【Training】人材育成のためのトレーニング(研修)を提供

サービス全体像

いずれも、日本国内のコンサルティング支援で培ったノウハウを基に、現地企業のニーズに合わせてローカライズしたサービスである。クライアント企業は日本やベトナムに留まらず、タイやシンガポールなどのASEAN諸国、さらには米国やドイツをはじめとする欧米地域など多岐にわたる。

出発点は、新興国の力になりたいという想い

日本は1960年代の高度経済成長期を経て、米国に次ぐ第2位の経済大国として世界に名を馳せた。だが、昨今その成長は鈍化し、人口減少や少子高齢化、内需縮小といった深刻な問題に直面している。経済力の総合指標とされるGDP(国内総生産)は1990年代以降伸長のペースが鈍化。名目GDPベースでは2010年には中国に、2023年にはドイツに抜かれ、現在は世界で第4位である。

こうした経済情勢を背景に、筆者は以前から国外での新規事業立ち上げを志向していた。モチベーションの源泉は、「日本で培ったノウハウを新興国へ展開し、その成長の支えとなりたい」という想いだ。

特に注目したのは、日本に地理的にも近いASEAN諸国の目覚ましい成長である。現代表の渡部も、ASEANの中でも特にベトナムのダイナミズムと成長性に魅力を感じていた。当時、二人で食事をしながら「既存事業で多忙な中だが、ベトナムで新規事業を立ち上げるために、まずは現地調査から始めよう」と語り合ったことを鮮明に覚えている。

スカイライトベトナム設立に至る経緯と試行錯誤の過程

まずは「拠点を設立するならば、ASEANで最適な地はどこか?」という問いに対し、各地域のポテンシャルと当社の提供サービスとの親和性を客観的に見極めることに努めた。その第一歩として、2015年にシンガポールへの視察を実施した。同国は、戦略的な外資優遇策や法人税率の低さによってビジネスを立ち上げやすい環境が整備されており、ASEANの物流・金融・人材面のハブとして機能している実態を体感した。現地でお会いした方々からお話を伺う中で、ビジネス展開のスピード感やスケールの大きさを直接窺い知ることができたのは大きな収穫だった。現地で関係を構築できたパートナー企業とは、その後も人脈のご紹介をいただくなど、情報交換を継続している。

また、「大きな存在感を示す“チャイナ”を見ずして、アジアでビジネスはできない」という言説に触れたこともあり、2017年には上海への視察も実施した。ベトナムがチャイナ・プラスワン(中国以外の国や地域へも海外拠点を分散させる戦略)の恩恵を受ける国の筆頭に挙げられることからも、中国への視察は不可欠だったからだ。日本でのパートナー企業の現地拠点などを訪問し、ヒアリングを重ねることで、“チャイナリスク”の実情を把握することができた。

こうした各地域への視察の過程では「現地クライアント企業のニーズに応えるためには、どのようなサービスが必要か?」を仮説ベースで策定し、その検証に尽力した。加えて、ASEANの熱気を肌で感じ、街の様子やサービスのトレンドを洞察することに努めた。各地域とも日本とは全く異なる市場が拡がっているため、現地での“肌感覚”がない限り新天地でのビジネスは難しいことを身をもって実感した。

その後、市場の成長性や現地で構築できた人脈などの観点から改めて比較検討した結果、まずはベトナムで新規事業を立ち上げる意志を固めた。社内関係者一同の「ベトナムの地で新規事業を創造したい」という信念が最大の決め手となった。

しかし、その決断の先には大きな苦難が待ち受けていた。拠点設立に向けて着々と準備を進めていた2020年、新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行したのである。ベトナム国内でもロックダウンが実施され、外出禁止措置により企業への訪問も進められず、新天地での営業活動は序盤から想定以上に難航した。

だが、この歴史的なパンデミック下でも、我々の信念は揺らがなかった。そして2022年8月、ついに法人設立へと至ったのである。

 

2022年11月に執り行われた開所式の参加者集合写真

2022年11月に執り行われた開所式の様子

スカイライトベトナムは2025年12月現在、4期目の終盤を迎えているが、営業黒字を維持しながら着実に業容を拡大している。

ここからは、この立ち上げ過程から得られたインサイトを詳しく解説していく。

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