「新規事業立ち上げ」の要諦(第2回:立ち上げの形態と特徴)/山下 厚
2025.11.26 COLUMN
#ビジネス戦略#新規事業
【②新会社の設立 -⑦子会社の設立と⑧合弁会社(JV)の設立-】
新規で会社を設立して新規事業を立ち上げることは、自社内での立ち上げ以上に難易度が高い。まず、時間軸の観点で、法人設立手続きにかかる工数とリードタイムを見込むことが必要となる。加えて、新規での法人設立に踏み込むため、将来的に失敗した際の事業撤退コストは決して小さくない。だが、顧客の目線で「当該事業に専念している会社」と認知されることはポジティブな印象を形成しやすい。さらには、独立した会社として事業運営にかかわる経営判断やリソースマネジメントなどを行えるため、事業の成長を大きく加速できるポテンシャルを秘めている。
代表的な形態としては、自社が出資する形での「⑦子会社の設立」が挙げられる。特に大企業にとっては、親会社として一定のガバナンスを効かせながら事業運営を子会社に委ねられるため、新規事業の成長に求められるスピード感を担保しやすい。
また、目標を共にするパートナー企業との「⑧合弁会社(JV:Joint Venture)の設立」という選択肢もある。特に、自社単独ではノウハウが乏しく実現が難しい異業種への参入などの場合、パートナー企業から技術面や人材面での協力を得ることが大きな後押しとなる。合弁会社の設立においては、新会社の資本構成や役割分担、利益の分配方法などをパートナー企業と協議して合意するプロセスを丁寧に踏む必要がある。相応の労力を要することになるが、両社がWin-Winの関係で大きな推進力を生み出せるメリットは非常に大きい。
なお、別の観点としては、“新天地”への事業展開を試みる場合には、新会社を設立した方が現地でビジネスを立ち上げやすいケースも多い。特に海外でビジネスを展開する場合、まず現実問題として現地までの移動にかかる交通費や現地での滞在費を考慮する必要がある。また、展開先の国や地域の歴史や文化も影響して、顧客が現地特有のニーズや価値観を持っていることも珍しくはない。そのため、既存事業とは完全に異なる新市場と捉えて、新会社を設立して事業展開に専念することが成功につながりやすい側面がある。
さらにリアルな観点としては、自社の法人拠点を構えない限り、現地での営業や採用活動を進めにくいという実態もある。「事業展開はしたいが、現地に自社の法人拠点がない」となると、顧客または採用の候補者が抱く心象として“中途半端なスタンス”に受け取られてしまうリスクがある。現地で活動するパートナー企業との連携や協業を通じて一定の範囲でビジネスを創造することはできるが、新規事業として大きくかつスピーディな成長を志向するならば、新会社の設立へ踏み込むことも検討すべきである。
なお、段階的な進め方として、「①自社内での立ち上げ」でスモールスタートを切り、軌道に乗った段階で「②新会社の設立」へ踏み込み、事業拡大を加速する方法も有効である。筆者の経験からしても、自社内で新規事業の種が“発芽”した後、その運営母体を新会社として切り出すことで一気に事業成長を実現できたケースは少なくない。
次回の<第3回>では、「新会社の設立」のパターンとして当社内における子会社設立の事例を取り上げ、その過程から得られた学びを解説する。
筆者による連載 『中期経営計画』編
山下 厚Atsushi Yamashita
スカイライト コンサルティング株式会社 ディレクター
東京大学法学部法律学科を経て、2009年にスカイライトコンサルティングに参画。主にBtoC企業を対象とする戦略策定、企画立案から実行推進までをワンストップに手掛ける「ビジネス戦略ユニット」の統括責任者。
デジタルマーケティング領域の知見者として、特に消費者の生活に関わる各種業界・業種において、企業全体の戦略見直しから新規事業・サービスの立上げまで幅広く手掛ける。上場企業向けの新規WEBメディア立上げや、ECサイトリニューアル等、自らがPMとして舵取りをして実現まで成果を導いた案件も多数あり、プロジェクトマネジメント有識者として中小企業の外部講師としても登壇。
出資および買収案件における事業デューデリジェンスも得意とし、複数企業間の協業モデル構築に関する知見および実績がある。また新規事業として、マーケティング知見のアジア展開もリードする。