「新規事業立ち上げ」の要諦(第2回:立ち上げの形態と特徴)/山下 厚
2025.11.26 COLUMN
#ビジネス戦略#新規事業
執筆:スカイライト コンサルティング株式会社 ディレクター 山下 厚
<第1回>では、昨今のビジネス環境における「新規事業立ち上げ」の重要性と、その取り組みのハードさについて解説した。今回は、新規事業立ち上げの代表的な形態とその特徴を解説する。
新規事業立ち上げの形態は、大別すると「①自社内での立ち上げ」と「②新会社の設立」の2パターンに分かれる。それぞれ進め方に特徴があるため、利点や注意点を十分に理解した上で、最適な形態を選択することが肝要となる。
筆者自身、コンサルティング支援の過程で「どちらのパターンが適しているか?」というご質問を受けることがあるが、まずは「①自社内での立ち上げ」から検討することが一般的である。自社内で検討が完結するため手続きが簡便で、スピーディに立ち上げやすい。また、既存の法人や事業基盤に立脚するため、失敗のリスクも低減できる。特別な必然性がない限り、「①自社内での立ち上げ」から検討を開始することを推奨する。
「①自社内での立ち上げ」は、さらに「③既存の事業部内でプロジェクトを発足するケース」と「④新規で組織を発足するケース」に分けることができ、後者はさらに「⑤トップダウン型」と「⑥ボトムアップ型」に分けられる。
一方、自社単独では難しい新規事業へのチャレンジや、海外を含む“新天地”での新規事業に踏み出す場合などは、「②新会社の設立」が適していることも多い。代表的な形態としては、「⑦子会社の設立」と「⑧合弁会社(JV:Joint Venture)の設立」が挙げられる。
ここまでの整理を構造的に図解すると、以下の通りである(図解1)

本稿では、各形態について順に解説する。
【①自社内での立ち上げ -③既存の事業部内でプロジェクトを発足-】
既存事業とのシナジー創出を重視する場合、この形態が最適である。既存事業で培った顧客資産やテクノロジー基盤を活用する場合、あるいは既存事業で扱う製品やサービスとのクロスセルを狙う場合などが挙げられる。既存事業のケイパビリティやノウハウを熟知したメンバーが中心となり、これらを土台として新たな事業をいかに創り出すかという視点で検討を進める。既存の組織体制を維持できる障壁の低さゆえに、実務面では特に選択しやすい形態といえるだろう。
ここで、成功させるために欠かせないポイントがある。それは、プロジェクトにアサインするメンバーのリソースを十分に確保しておくことである。<第1回>にて述べた通り、新規事業は決して片手間で立ち上げられるものではない。組織体制面での簡便さが利点である一方、形式的にプロジェクトを発足するだけでは形骸化してしまう可能性があるという点には十分留意すべきだ。
また、プロジェクト型で進める以上、ゴール設定や進捗管理、課題管理などのプロジェクトマネジメント機能が成功の鍵を握る。当該機能が盤石でない場合、成果創出に至る手前の段階で頓挫してしまうケースも少なくない。プロジェクトマネジメント自体は、PMBOKなどのフレームワークの理解を前提として、熟練者の経験や知見が“モノをいう”領域である。当社では、PMやPMOの立場でご支援する機会も多い。
加えて、プロジェクトにアサインするメンバーの評価やミッションを考慮し、チャレンジに向き合うモチベーションを設計することも不可欠である。企業として、次なる事業の柱を創造する取り組みだからこそ、人事的な観点での考慮は盤石にしておかねばならない。
【①自社内での立ち上げ -④新規で組織を発足-】
既存事業とは切り離す形で、適性のあるメンバーを集めて「④新規で組織を発足」することも一つの選択肢である。独立した組織として、新規事業の検討に集中することができる。これまで扱わなかった新たな領域への事業拡張など、自社にとって革新的な新規事業を創造する場合には最適な形態といえる。また、現場メンバーが既存事業の業績目標にとらわれずに斬新なアイディアを出しやすい。
「⑤トップダウン型」については、大企業における新規事業開発部などの部署をイメージするとわかりやすい。ここでは、経験が豊富なベテランメンバーが中心となり、経営層と密に連携しながら検討を主導することが一般的である。経営層の意向や指示を受けてビジネスプランの骨子を固めた上で、現場メンバーが具現化に努める。その意味では、先に方針が定まるために検討の方向性がブレにくいことが利点といえる。
一方で「⑥ボトムアップ型」は、現場メンバーの思考や発想の種を起点に事業化を進めるというアプローチである。自社の資金やノウハウ、社会的な信用度などを基盤として、現場から生まれたビジネスアイディアを形にする。まさに自社の内部にベンチャー企業を組成するイメージであり、「社内ベンチャー(社内起業)」とも称される。
なお、「社内ベンチャー(社内起業)」は大手企業を中心に制度化が進められており、近年ではトレンドとして注目を集めている。現場メンバーの目線からすると、独立した形での起業と比べると自社の基盤を活用できるため、低リスクで新規事業を創造できることが最大の利点だ。企業側の目線としても、起業家精神に富む従業員の社外流出を防ぎやすくなる。加えて、指示された方向性がない中で柔軟に発想することができるため、イノベーティブな事業が生まれやすい。
実務的には「ビジネスアイディアを現場起点でどのようにして生み出すか?」が工夫のしどころとなる。例えば、様々な立場のメンバーを集めたブレスト会を企画することも一手である。さらに踏み込んで、大々的にビジネスコンテストを企画してアイディアを募集し、プレゼンしてもらうのも良いだろう。
スタートアップ企業が資金調達を目的として、投資家またはベンチャーキャピタルの担当者向けにビジネスアイディアをプレゼンすることを“ピッチ(pitch)”と呼ぶ。メディアやイベント企画企業を中心に様々なピッチイベントが開催されており、実際に参加してみると、その独特な雰囲気を体感できる。新規事業の創造への期待と同時に、“甘い世界ではない”と言わんばかりの張り詰めた緊張感の中で執り行われることが多い。そのようなピッチイベントを社内でも開催することで、自社の次世代を担う秀逸なビジネスアイディアを発掘できるかもしれない。
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