リーダーズ・インテグレーションのすすめ/田頭 篤
2025.10.22 COLUMN
#人材育成#組織づくり
「自分は部下にどう思われているのか。」
管理職やリーダー、上司の方なら、一度は気になったことがあるのではないでしょうか。特に気になるのは、自分に対する「評価」かもしれません。とはいえ、部下が本音を率直に話してくれるとは限りません。そもそも本音を言い合える関係であれば、過度に気にすることもないでしょう。
「匿名性が担保される無記名アンケートであれば聞けそうだ」と考える方もいるかもしれません。実際、そうしたアンケートを実施している企業も少なくありません。しかし、この方法はリーダー側からのアクション――例えば感謝を伝える、誤解を解く、詳細を確かめる、時には憤りを表明する――といった双方向のやり取りになりにくいのが実態です。
そこで今回は、匿名性をある程度担保しつつ、部下がどう思っているかを「聞き」、その場でリーダーが「反応できる」方法として『リーダーズ・インテグレーション』をご紹介します。
リーダーズ・インテグレーションとは?
リーダーズ・インテグレーションとは、その名の通り、リーダーをチームに統合(インテグレート)するための手法です。特に新任管理職や新任リーダーが早く溶け込み、チーム全体のパフォーマンスを高めることを目的としています。
※ 以下、リーダー=上司・管理職、メンバー=部下、チーム=自部署と読み替えて構いません。
進行役(ファシリテーター)を一人置き、リーダーとメンバーを会議室に集めます。所要時間は全体で1.5~2時間程度。手順は次の通りです。
① リーダーがメンバーに対して一言話す
② リーダーはいったん退席し、メンバーだけでリーダーについて話す(内容をホワイトボードに記載)
③ メンバーが退席し、入れ替わりでリーダーが戻り、ホワイトボードに書かれた内容を確認する
④ メンバーが戻り、リーダーが内容についてコメントする
詳しく見ていきます。
まずはリーダーから、チームやメンバーに関する考えや思いを5分程度で話します。
続いてリーダーが退席した後、メンバーだけでリーダーについて以下4つの問いに答えながら話し合います。
- リーダーについて知っていることは?
- リーダーについて知らないことは?
- リーダーに期待することは?
- リーダーに貢献できることは?
まず1つ目の問いに答えます。たとえば「◯◯に住んでいる」「同世代で一番早く昇進した」「お子さんが独立していて夫婦で暮らしている」など、些細なことやプライベートなことでも構いません。進行役は随時ホワイトボードや模造紙に内容を書き留めます。
ちなみに、私がこれまでリーダーの立場でこの手法を実施した中でいちばん記憶に残っているのは「ファッションセンスがない」という指摘でした。自覚していたとはいえ、苦笑するしかありませんでした。
さて、2つ目以降も順番に進めます。多くの場合、進むにつれて発言は少なくなる傾向があります。たとえば1つ目の「知っていること」は事実なので話がしやすいですが、2つ目の「知らないこと」は裏を返せば「知りたいこと」という“意見”になるためやや出にくい。3つ目の「期待すること」は普段あまり意識していないためさらに出にくい。さらに4つ目の「貢献できること」は一段と出にくく、ホワイトボード上の回答ボリュームの差は一目瞭然です。
この3つ目と4つ目の回答の少なさを見て、メンバー自身が「もっと積極的にリーダーとの関わり方を考えるべきなのかもしれない」と気づくこともあります。
次に、メンバーが退席し、戻ったリーダーは書かれた内容をじっくり確認します。私は進行役になることが多いのですが、このときのリーダーの表情――照れたり驚いたり、眉間にしわを寄せたり――を見るのが好きです。進行役は必要に応じて補足やフォローを行います。
最後にメンバーが戻り、リーダーがコメントします。ここでの「返し方」が重要なポイントであり、リーダーのメンバーへの向き合い方が垣間見える瞬間です。
4つの問いに込められた意味
この4つの問いには、大きく2つの意味があります。
1と2(「知っていること」「知らないこと」)は、リーダーとメンバーの間で「リーダーについて知っていること」を増やします。1を通じて“皆が知っていること”が増え、2を通じて“まだ知らないこと”が明らかになり、リーダーのコメントによってやはり知っていることが増えます。
これは、リーダーが自分をよりオープンにすることで、メンバーは自分の考えや気持ちを伝えやすくなり、ひいては信頼や深い人間関係の構築につながります。
リーダーズ・インテグレーションの最後、リーダーのコメントが肝となる理由には、このオープンさが試されるということもあります。お互いの「知っていること」を広げる意義や方法は『ジョハリの窓』で説明されることもあります。これは、自己開示とフィードバックで「自身の開放の窓」を広げ、相互理解・信頼・成長を加速させるコミュニケーションモデルです。意義や方法は『ジョハリの窓』で説明されることもあります。これは、自己開示とフィードバックで「自身の開放の窓」を広げ、相互理解・信頼・成長を加速させるコミュニケーションモデルです。興味がある方は調べてみてください。
3と4(「期待すること」「貢献できること」)はどうでしょうか。むろん1、2と同様、共有が進むことに寄与します。それに加え、もう1点重要な意味があります。冒頭で「気になるのは評価ではないか」と触れましたが、評価とセットで不可欠なのが基準です。どの基準に照らして評価されているのか。リーダーズ・インテグレーションの3と4――「期待」と「貢献」――はこの基準を可視化します。正確には、メンバーがどの基準でリーダーを見ているかを示しています。妥当な基準もあれば、そうでないものもあるでしょう。妥当ではないと感じ憤慨するリーダーもいます。ただ、このプロセスをきっかけに互いの基準をすり合わせていくことが大切です。この点は自ずと気づかれるリーダーが少なくありません。
「リーダーにオープンさが求められること」、「基準を示されること」はリーダーにとって必ずしも心地よい時間ではないかもしれません。しかし、リーダーがリーダーとしてチームに「組み込まれる」とは、その壁を乗り越えることでもあります。
メンバーにもたらす効果
さて、この取り組みにはもう一つ効用があります。それはメンバー同士への効果です。
例えば、「リーダーについて知っていること」を話している際の一幕で、
Aさん「◯◯県出身」
Bさん「へぇ、リーダーって◯◯県なんだ。知らなかった」
Aさん「前に□□プロジェクトで一緒に働いたときに聞いたんだ。私も◯◯県なんです」
Cさん「あれ? 私もそのプロジェクトにいましたよ。デザイン側でした」
Aさん「あのデザインは大変だったでしょう?」
Cさん「そうなんですよ。結構複雑なことをやらなきゃいけなくて」
Bさん「あー、聞いたことある。確か……」
といった会話で盛り上がることが度々おきます。盛り上がりすぎて進行役として割って入ることもあります。リーダーのいないところでリーダーの話をするわけですから、噂話をするようなものです。メンバーは気持ちとして話しやすくなっているため、リーダーについて「知っていること」を起点に話が広がりやすく、結果的にメンバー同士の共有が進みます。
リーダーズ・インテグレーションの終了後、メンバーからの「メンバー同士で会話できたことがよかった」という声も少なくありません。リーダーとしても、メンバー同士でのコミュニケーションを頻繁にとってほしいと願う方は多いでしょう。その触媒に自分がなるということも一つのリーダーシップではないでしょうか。
リーダーズ・インテグレーションは、時間の確保や進行役の準備、リーダーとしての心構えといった観点から、実施のハードルがやや高いと感じられる方もいるかもしれません。しかし、その手法自体はシンプルであり、手順も明確です。まずは一度、試してみてはいかがでしょうか。
田頭 篤 Atsushi Tagashira
リードエキスパート
システムベンダーを経て、2002年にスカイライトコンサルティングに参画。
「やりたいことをお客様自身がやれるようになる」をコンセプトに、組織・人材の領域で起こっている問題・課題に焦点を当て、主にファシリテーター/コンサルタントとして企業を支援。組織設計、人事評価制度設計、人材教育制度設計といったハード面での支援から、ビジョン策定ワークショップ、モチベーション向上支援といったソフト面での支援まで幅広く提供している。
ビジネスセクター以外では、被災地での対話ワークショップや一般市民向けワークショップなどを通じて人と人とのコミュニケーションを促し、関係改善やシナジーを生み出す支援を行っている。