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中期経営計画の策定(前編:意義とプロセス)/山下 厚

2025.08.18 COLUMN

#ビジネス戦略#新規事業

中期経営計画の策定(前編:意義とプロセス)/山下 厚

執筆:スカイライト コンサルティング株式会社 ディレクター 山下厚

激動の時代に、企業がより良い未来へと旅路を進めていくために

昨今、ビジネスにおける競争環境の変化は著しく、まさに激動の時代を迎えている。企業は、未来に向かって持続的な経営を模索する中で、自社が進むべき方向性を見極めることが難しくなりつつある。生成AIに代表されるテクノロジーの劇的な進化を受け、事業や組織、人材といった経営基盤のあり方を根本から見直している企業も少なくない。これまで脈々と歴史を刻んできた事業でさえも、先行きの不透明な競争環境の中で成長し続けていくことは容易ではないだろう。

各社、まさに毎日が正念場ともいえる時代に突入した今、より良い未来へと旅路を進めていくためには、いくつかの要諦がある。まずは世の中を広い視野で捉えた上で、自社のポテンシャルとリスクの両面に目を向け、合理的な計画、すなわち「中期経営計画」を策定することである。計画を“画に描いた餅”にしないためには、自社内の組織または人同士の合意形成を丁寧に進めていくことがポイントとなる。

また、既存事業の成長のみに留まらず、新たな形での顧客価値の提供を探索することの重要性も増している。いわゆる「新規事業」の立ち上げである。強い信念を持つメンバーによるリーダーシップと、勝ち筋の見極め、そして精度の高い事業計画の策定がポイントとなる。

さらにいえば、市場における成長のスピード感も考慮すると、事業価値を自社の独力で最大化することが最適解とも限らない。パートナーとなり得る企業と手を取り合い、旅路を共にするという選択肢も視野に入れる必要がある。自社の成長を加速させるための「M&A」の検討である。その際は、相手企業と両社間のシナジーを検証するプロセス(ビジネス・デューデリジェンス)が成功のカギを握る。

これらのテーマは、いずれも難易度が高い。経験値が乏しい中で、勘所が掴めないまま取り組みを進めてしまうのは、非常にリスキーである。昨今、あらゆる参考情報やニュース記事へのアクセスが可能となっているが、いざ自社での実行を試みると、なかなかスムーズには進められないのが実情だろう。

ここで求められるのは、実行できるレベルまで昇華された知見、いわゆるノウハウだ。それは時として、実際に熟練の経験者と現場を共にしながら肌で感じ、吸収していくことも効果的である。その意味で、クライアント企業様と二人三脚となり、難易度の高いテーマに取り組んで成果を創出するコンサルティングサービスの価値は、今後も増していくだろう。共に歩みながら、クライアント企業様の内部にノウハウを蓄積していく。これはまさに、当社の「伴走型コンサルティング」の真髄でもある。

以上のような環境認識のもと、筆者自身の経験も踏まえ、上述したテーマを中心に連載を開始させていただく。コンサルティングのノウハウに触れていただき、皆様のビジネスに何らかの示唆を提供できれば幸いである。

連載の最初は、「中期経営計画の策定」というテーマから入ることとしたい。

 

中期経営計画の策定(前編:意義とプロセス)

 

企業が競争環境を航海していく上では「羅針盤」が不可欠

経営戦略論に触れたことがある人であれば、「ブルー・オーシャン戦略」という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。新市場を創造することにより、他社との価格競争に巻き込まれることなく事業展開していく戦略をいう。グローバル・ビジネススクールであるINSEADの教授(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ)によって2005年に発表されて以降、約20年が経過した今もなお、ビジネス界の様々な場面で取り上げられている。

「ブルー・オーシャン」という言葉が示す通り、企業が事業を営む市場は“海”に喩えられることがある。まったく新しく切り拓いて創造した市場。それは、船旅において行く手を阻む障害物がない、真っ青な“海”のようである。一方で、多数の企業がひしめき合うような、競争の激化した市場は「レッド・オーシャン」と称される。

どのような“海”であろうと、企業が船旅に出ていく際には、「流れに身を任せて突き進めば良い」という考え方は、大きな危険を伴う。予期せぬ荒波に揉まれ、いつの間にか大海原の中で迷子になってしまったり、あるいは、ふと気が付いたら周囲を敵に囲まれているかもしれない。これは、ビジネスの世界において、まさに昨今の激化した競争環境の様を表している。企業が生き抜いていくためには、何らかの「羅針盤」を頼りに計画的に針路を定め、誤りのない方向へと着実に航海していくことが肝要なのである。

では、企業が航海していく上で拠り所となる「羅針盤」とは何か。それこそが、本稿で取り上げる「中期経営計画」である。いわば、今後の世の中のあり方を見据えた上で、「自社はどの方角に進むべきか」を定めた計画書だ。本稿では、その「中期経営計画」に関して、策定することの意義および実践のポイントについて、3回にわたる連載で記していく。

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